近年、保育施設での食事中の事故が社会問題となっています。特に誤嚥・窒息事故は、一瞬の油断が取り返しのつかない事態を招く可能性があり、私たち保育従事者にとって最も注意を払うべき課題の一つです。本記事では、日々の保育現場で実践できる具体的な予防策から緊急時の対応まで、体系的にまとめています。すべての子どもたちが安全に、そして楽しく食事ができる環境づくりのために、本記事の内容を参考にしてください。
はじめに
記事の本題に入る前に、気管と食道のしくみや嚥下や誤嚥の定義等、基礎知識をおさえておきましょう。
気管は鼻と口から吸った空気の通り道です。食道は食べ物・飲み物の通り道です。気管と食道はのど部分で交差しています。
嚥下(えんげ)とは、食べ物を口から胃へ送るための一連の運動のことです。食べ物を飲み込むときは、咽頭蓋が下向きになり、気管の門が綴じて食道が開き、食べ物が食道から胃へと入っていきます。
誤嚥とは、食べ物が食堂へ送り込まれず、誤って気管から肺に入ることをいいます。乳幼児の気管の径は1cm未満です。大人は2㎝程度程度のため、これより大きいと気管の入り口を塞ぎ、窒息の原因となります。
※誤飲は食物以外のものを誤って口から摂取することで誤嚥とは区別しましょう
窒息事故の実態
深刻な統計データ

厚生労働省の統計によると、0~4歳児の不慮の事故による死亡原因の中で、「誤嚥・窒息」は交通事故と並んで上位を占めています。特に0~1歳児での発生率が高く、年間数十件の重大事故が報告されています。保育施設での発生件数は減少傾向にあるものの、完全な予防には至っていません。
なぜ乳幼児は窒息しやすいのか
乳幼児が窒息しやすい理由は、身体の構造や発達段階に深く関係しています。保育士がこれらの特性を理解することで事故のリスクを大幅に軽減することができます。乳幼児の誤嚥・窒息の事故が多い原因をまとめました。
解剖学的特徴
発達段階による要因
窒息事故を防ぐための安全な食べさせ方
子どもたちが安全に食事を楽しむためには、発達段階に応じた適切な食事の方法と環境づくりが欠かせません。具体的な食べさせ方や姿勢、環境設定について紹介します。
発達段階に合わせた安全な食事の方法
- 子どもの正面に座り、「あーん」「おいしいね」「もぐもぐ」などと声をかけ、口の動きを促す
- 目を離さず、一人一人の嚥下の様子をしっかり見ていく。
- 食事の途中で、眠くなってしまったら無理に食べさせない。
- 腰がしっかり安定するように、椅子の工夫をしていく。
| 離乳期の区分 | 形態 | 特徴 | 子どもの姿 | 配慮 |
| 離乳開始前 | 液状のもの | ・母乳やミルク以外の物に慣れる | ・大人の食べる様子を見てほしがる ・手にしたものをなめ担任、保護者と連携を とりながら進めていく | ・初めての食材は、家庭で試してもらう ・家庭での様子を把握していく ・栄養士、担任、保護者と連携をとりながら進めていく |
| 5~6か月ごろ | なめらかにすりつぶした状態 | ・唇を閉じてごっくんと飲み込める | ・スプーンから食べ物を唇で取り込む ・「お口あーん」と声を掛けられると 自分で口を開ける | ・スプーンは浅く、口角の1/2~2/3の大きさとする ・口に入る量は、スプーン半分が目安 ・開いた口の舌先にスプーンを置き、口が閉じるのを待ちスプーンを抜く |
7~8か月ごろ | 舌でつぶせる固さ | ・舌と上あごで食べ物をすりつぶして 食べられるようになる | ・舌の使い方が上手になり、唇を閉じて口の中に 食べ物を送ろうとする ・肉や魚など、舌ですりつぶしにくい物は口の中に 残ったり出したりする | ・唇を閉じたら水平にスプーンを抜く ・飲み込めず口の中に残っているときは口から出す ・次の食べ物を口に入れる時には量を加減する |
9~11か月ごろ | 歯茎でつぶせる固さ | ・舌で食べ物を片側に寄せ、奥の歯茎で 噛む動作ができるようになる | ・形ある食べ物を歯茎の方に送り、上下の歯茎で潰す ・手づかみで食べる ・手のひらで押し込む。 ・コップを使って飲もうとする。 | ・「もぐもぐ、ごっくん」など声掛けをしながら つめすぎや、丸のみしないようにする ・のどを潤しながら食事をする ・別皿を使うなどして、手づかみ食べをしやすくする ・コップの使い始めは量を加減し、そばで見守る |
| 12~18か月ごろ | 歯茎で噛める固さ | ・前歯を使って食べ物をかみ切ったり奥歯で 噛んだりするようになる | ・前歯でかじり、舌を上座左右に動かして移動させる ・歯の生えていない奥の方の奥歯でつぶして食べる ・スプーンやフォークを使って食べようとする ・食べる量や好き嫌いなど、個人差がでてくる | ・固い食材はしっかり噛んでいるか確認 ・スプーンやフォークで食べられるものを取り入れていく ・大きさや量を調節したり、「おいしいね」などの 声掛けをすることで楽しい雰囲気をつくる |
- 食の自立とともに、窒息事故が起こりやすくなることを把握しておく。
- 保育者は、子どもの食べ方や様子が見えるようそばにつき、できるだけ立ち上がらず、落ち着いて安全に食べられるよう見守る。
| 特徴 | 子どもの姿 | 配慮 |
| ・歯の生え方や咀嚼力には個人差がある ・一口で食べられる適量がわかるようになり、 食べ物の大きさや固さに適した食べ方が 身についてくる ・唇を閉じたまま咀嚼するようになる | ・「いただきます」の挨拶をする ・スプーンやフォークを使って食べる ・手の機能が未発達のため、上手くすくえず、 かきこんで食べてしまう ・噛まずに飲み込もうとする ・苦手な物や食べにくい食材を口の中に ため込む ・おしゃべりや遊び食べをする ・食事中眠くなる ・ごちそうさまの挨拶をする | ・挨拶をすることで食べ始めと食べ終わりの区切りをつけ、 落ち着いて食事ができる環境をつくる。 ・一口の適量を知らせていく。 ・のどを潤しながら食事をする。 ・口の中の食べ物がなくなったことを確認してから、次の食べ物を口に入れる。 ・スプーンにのせる量や口の奥まで入れすぎないように、注意していく。 ・器の中が少なくなるとスプーンですくいづらくなり、かき込みやすくなるので 保育者がスプーンにのせる等、配慮をする。 ・食べやすい大きさにして、「もぐもぐ」「かみかみ」などと 声かけをし、よく噛んで食べることを知らせる。 ・飲み込みにくい様子が見られた時には、一度口の中から取り出す。 ・口の中に食べ物がある時は誤嚥の危険性が高くなるので、おしゃべりなどしないよう声掛けをする ・食事を終わりにする時は、口の中に物が入っていないか確認する。 ・麦茶を飲んだりタオルで口を拭いたりした後、口の中に物が入っていないことを確認する ・年齢、発達によりブクブクうがいをして口の中を綺麗にすることを促す。 |
- 保育者は子どもの状況が把握できる位置につき、安全な食べ方をしているか確認する。
(姿勢、口に入れる量、水分など) - 食事に集中できる環境をつくる。(テーブルに座る人数、食事後の過ごし方など)
- ゆとりある時間を確保する。
| 特徴 | 子どもの姿 | 配慮 |
| ・乳歯が生えそろい固さ、大きさ、粘土等に合わせ しっかり噛んで食べることができる ・安全な食べ方の基礎が身についている |
・食べ物をかき込んだり、急いで食べたりする ・前歯や奥歯を使い分け、固い食材も食べられるようになる ・食べ物を口に入れた状態で話をしたり立ち歩いたりする ・一品食べをする |
・ゆとりある時間を確保する ・早食いにならないように集中してよく噛む時間をつくる ・前歯が抜けている時は、小さくちぎり 奥歯でしっかり噛むように声をかけていく ・食べ物が急に気管に入ってしまうことがあるので、 その都度危険につながることを伝えていく ・のどにつまりやすいので食べ物と水分(汁物)が バランスよくとれるように声掛けしていく |
食事中の見守りや安全に食べるための環境づくり
①姿勢のポイント
5~6か月(嚥下を促す姿勢)

開口時に、舌が床に平行程度の顎部の角度にします
7~8か月~幼児期(顎や舌に力が入る姿勢)

- 背もたれは、お風呂マットにカバーを掛けるなどの工夫をする
- 足元はお風呂マットを切ったりくりぬいたりして工夫する
②見守りポイント
③安全な食べ方のポイント

気を付けたい食べ物一覧

特定の形状や性質を持つ食べ物は注意が必要です。食材の特徴に応じたリスクと、それらを避けるための調理法を説明します。調理方法や切り方の工夫で、事故を未然に防ぐことができます。
注意したい食べ物の特徴と具体例
どんな食べ物でも誤嚥、窒息の可能性はありますが、特に誤嚥、窒息につながりやすい食材をまとめました。大きさとしては、球形の場合は直径4.5㎝以下、球形でない場合は直径3.8㎝以下の食物が危険とされていますが、臼歯の状態によって、十分に食品をすりつぶすことができない月齢においては危険が大きく注意が必要です。
給食での使用を避ける食材
誤嚥・窒息につながりやすい給食での使用を避けるべき食材をまとめました。
①球形の形状が危険な食材

吸い込みにより気道を塞ぐことがあり危険です。
②粘着性が高い食材
含まれるでんぷん質が唾液と混ざることによって粘着性が高まり危険です。
③固すぎる食材
噛み切れずそのまま気道に入ることがあり危険です。
0・1歳児クラスで避ける食材
給食での使用を避ける食材に加え、咀嚼機能が未熟な0・1歳児クラスでの提供を避ける食材をまとめました。
①固く噛み切れない食材

②噛みちぎりにくい食材
調理や切り方を工夫する食材
①弾力性や繊維が硬い食材
②唾液を吸収して飲み込みづらい食材
窒息時の対応について
万が一、子どもが窒息した場合、迅速で適切な対応が命を救う鍵となります。特に小さな子どもは窒息のリスクが高いため、保育者は正しい知識を持ち、落ち着いて対応できるよう日頃から準備をしておくことが重要です。初動が遅れると命に関わる可能性があるため、しっかりと手順を理解し、実践に備えましょう。
窒息時対応の基本の流れ
以下は窒息事故が起きた際の一般的な対応フローです。各園ではこれを参考にしつつ、独自の緊急対応計画を整備してください。これを基に、各園での役割分担や対応手順を明確にすることが大切です。

対処法一覧
窒息事故が発生した際、迅速で正確な対応が命を守る鍵となります。以下に、窒息時の対応方法を紹介する動画リンクを掲載しています。それぞれの方法を実際に身につけておくことで、緊急時にも冷静に対処できるようになります。
日頃から動画を参考に手順を確認し、職員間で情報を共有しておくことが大切です。定期的な復習や訓練を通じて、全員が対応方法をしっかり理解しておきましょう。
背部叩打法(対象年齢:全年齢)
背中を強く叩いて詰まったものを取り除く方法です。
胸部突き上げ法(対象年齢:0歳)
乳児の胸部を圧迫して詰まったものを取り除く方法です。
腹部突き上げ法(対象年齢:1歳以上)
※1歳未満の子には絶対に行ってはいけません。
心肺蘇生法&AEDの実施手順
心肺蘇生法については、乳児と小児とではそのやり方が異なります。しっかり違いを理解しましょう。
乳児の心肺蘇生&AEDの実施手順
小児の心肺蘇生&AEDの実施手順
予防のための園全体での取り組み
誤嚥や窒息事故を防ぐためには、保育士一人ひとりの努力だけでなく、園全体での包括的な取り組みが必要です。安全な保育環境を整えるには、職員同士の連携、環境の工夫、保護者との連携が欠かせません。これらを実現するために役立つ具体策をご紹介します。
職員研修の充実

保育現場での事故を未然に防ぐためには、職員一人ひとりが必要な知識とスキルを身につけることが重要です。以下のような研修を定期的に実施することで、安全意識を高め、適切な対応力を養うことができます。
環境整備
物理的な環境を見直すことは、事故の発生を防ぐ第一歩です。子どもたちが安心して過ごせる環境を整えるために、次のような取り組みを行いましょう。
保護者との連携
園内での取り組みだけではなく、家庭での注意喚起や保護者との協力も事故防止に欠かせません。園と保護者が一緒に取り組むことで、子どもたちの安全がさらに強化されます。
まとめ

誤嚥や窒息事故を防ぐためには、日々のちょっとした気配りや適切な対応を積み重ねることが大切です。子どもたちが安心して過ごせる環境を整えるために、この記事の内容をぜひ参考にしてください。
子どもたちにとって食事は、栄養を摂るだけでなく、心と体の成長を支える大切な時間です。安全をしっかり守りながらも、楽しく過ごせる食事時間を作るために、保育者一人ひとりが専門知識を深め、注意を怠らず取り組んでいきましょう。
参考資料

