2024年11月22日、三原じゅん子こども政策担当相が「保育士の給与を10.7%引き上げる」と発表しました。このニュースに期待を寄せる保育士さんも多いのではないでしょうか。
しかしこの賃上げに関連するニュース記事の多くは誤解を生む可能性があります。本記事では、この賃上げの「仕組み」と「からくり」を徹底解説します。読むことで「自分の給与にどう影響するの?」という疑問を解消し、今後の働き方を考えるヒントになるはずです。
給与改善の歩みと10.7%のからくり
まずはこの図をみてください。近年、保育士の給与は処遇改善の取り組みを通じて上昇傾向にあります。例えば、処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲをはじめ、国はこれまでさまざまな施策を講じてきました。

ここで令和5年度と令和6年度を比較して最も数字の変化が大きいところに注目してください。
「人事院勧告に準拠した改善」が令和6年度24.9%(前年度比+10.7%)となっています。そう、今回の賃上げに関連するニュースはこの10.7%という処遇改善幅の大きい部分だけを大々的に報道しているものなのです。給与総額に対する10.7%が賃上げになるわけではないので注意が必要です。
こうした事実を踏まえた上で、人事院勧告がどのように保育士の給与改善に影響しているのかを詳しく見ていきましょう。
人事院勧告とは?
人事院勧告は、国家公務員の給与水準を民間企業の給与水準に近づけるために人事院(行政機関)が行う提言です。毎年8月に発表され、この勧告は公務員や公立保育園の保育士さんだけでなく、私立保育園で働く保育士さんの給与にも影響を与えます。2024年度の10.7%改善は、この人事院勧告を基にしたものです。
改定された賃金引き上げ分は、基本的にその年度内に支給されるべきものとされています。しかし、やむを得ない理由で年度内に全額を支給できない場合には、次年度に不足分を支給することが求められます。これは保育士一人ひとりに確実に改善額が届くようにするためです。
公定価格と地域区分
保育士の賃上げ分がどのように支払われるかを理解するには、公定価格や地域区分の仕組みを知る必要があります。
公定価格とは?

公定価格とは、保育に必要な費用の金額のことです。国が定めた基準に基づいて算定され、子ども一人あたりの単価として設定されています。公定価格は、設定区分(1~3号認定)、保育必要量、地域区分などによって異なり、施設の定員数や子どもの年齢によっても単価が異なります。
保育士の給与改善を図るために、人事院勧告で示された給与引き上げ分は、公定価格に「上乗せ」として追加されます。つまり、人事院勧告で給与引き上げのために必要とされた額が、公定価格に加算され、保育施設はその上乗せ分を給与支払に充てることができます。
地域区分とは?
地域区分は、全国の市区町村を物価や生活費に基づいて分類し、それに応じた補助金額を決定する仕組みです。
地域区分は、【20/100、16/100、15/100、12/100、10/100、6/100、3/100、その他地域】の8区分に分けられおり、分子の数が大きいほど公定価格の単価は高くなります。ご自身のお住まいの地域がどの地域区分に当たるのか確認してみましょう。たとえば札幌市は3/100(3級地)に分類されており、全国的には平均的な水準です。(2024年11月現在)
地域区分一覧
(出所:公定価格に関するFAQ(よくある質問)(Ver.23))
「10.7%の賃上げ」は素直に反映されない?

人事院勧告に基づく賃金引き上げ分は、確実に保育士に配分されるべきものです。しかし、この10.7%の賃上げがそのまま給与に反映されるわけではなく、以下の要因が影響します。
地域区分の影響
地域区分によって公定単価が異なるため、同じ改善率でも反映される金額が変わります。たとえば、1級地(東京都23区)では改善額が大きく、3級地の札幌市では平均的な改善にとどまる可能性があります。さらに、令和6年度から地域区分が改定される地域があります。公定価格が10.7%上がっても、地域区分の変更により人件費が下がる地域もあり、保育施設の運営法人はその点を考慮して支給を行ったり給与改定する必要があります。
園の裁量
公定価格に基づく人件費改善分をどのように配分するかは、各園の判断に委ねられています。そのため改善額が保育士一人ひとりに平等に反映されるわけではありません。日々の働きぶりの評価等が給与に反映されるのは一般の事業会社と変わりません。
若年層職員が基準
人事院勧告による賃金引き上げは、勤続年数が5年程度(短卒の保育士さんであれば25歳前後)の職員給与が基準です。一般的に勤続年数が長かったり役職に就くと給与水準がは上がっていきます。そのため全ての世代や役職員に同じ割合で賃金を引き上げるには、多くの財源が必要となります。この制約があるため、実際には若い職員の給与が優先的に改善される傾向が強く、世代や役職によって引き上げ幅に差が生じます。
いまの賃金制度の課題

保育士の給与改善が進んでいる一方で、地域や施設の運営状況によってその実感に差が生じる現実があります。特に、定員割れが常態化している施設では、公定価格が十分に反映されず、施設が受け取る補助金(運営費)が減少するため、給与改善が不十分になる場合があります。施設側が不足分を補填できない状況では、人件費の減少が避けられないため、根本的な対策が求められています。
今後は、定員割れに対する支援策や、地域間で公平な給与改善が実現できる仕組みの整備が必要です。
まとめ

10.7%の賃上げは、保育士全体の待遇向上に向けた大きな一歩です。ただし、その効果を実感するためには、給与改善の仕組みを保育士さん自身がしっかり理解することが大切です。不明な点があれば、所属する園や専門機関に相談し、自分にとって納得のいく働き方を見つけていきましょう。

